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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)665号 判決 1985年6月27日

第一事件控訴人 堀越正美

<ほか一八名>

第二事件控訴人 前川河香志

<ほか一四名>

第三事件控訴人 今関美雪

<ほか二名>

第四事件控訴人 増田真

<ほか六名>

第五事件控訴人 奥山香二郎

<ほか六名>

右控訴人ら五一名訴訟代理人弁護士 新井章

同 大森典子

同 江森民夫

同 加藤文也

同 斎藤豊

第一ないし第五事件被控訴人 日本住宅公団訴訟承継人 住宅・都市整備公団

右代表者総裁 大塩洋一郎

右訴訟代理人弁護士 鵜澤晉

同 大橋弘利

同 上野健二郎

第一事件被控訴人 萬世ビル株式会社

右代表者代表取締役 乙黒重朗

第二事件被控訴人 株式会社能澤製作所

右代表者代表取締役 能澤敬次

<ほか一名>

右被控訴人ら三名訴訟代理人弁護士 片山和英

第四事件被控訴人 吉川印刷株式会社

右代表者代表取締役 吉川堯雄

第三事件被控訴人 寺田満男

右被控訴人ら二名訴訟代理人弁護士 廣瀬功

第五事件被控訴人 協和電設株式会社

右代表者代表取締役 荒木義之

右訴訟代理人弁護士 楢原英太郎

主文

一  原判決主文一項(但し昭和五五年(ワ)第三六七号事件控訴人らに関する部分を除く。)についての本件各控訴を棄却する。

二  原判決主文二項を取消す。

三  原判決主文二項の控訴人らの変更後の訴及び昭和五五年(ワ)第三六七号事件控訴人らの当審における新たな請求についての訴を東京地方裁判所に差し戻す。

事実

一  控訴人ら訴訟代理人らは、「一 原判決を取消す。二 本件を東京地方裁判所に差し戻す。」との判決を求め、被控訴人ら訴訟代理人らは、本件各控訴を棄却するとの判決を求めた。

第一事件控訴人ら訴訟代理人は、当審における新たな請求として、「一 第一事件控訴人らそれぞれと被控訴人住宅・都市整備公団との間において、原判決添付別紙物件目録記載(一)の建物のうち原判決添付別紙賃貸借契約一覧表記載(一)の各居室について、契約年月日欄記載の各年月日に締結した賃貸借契約が存在することを確認する。二 第一事件控訴人らそれぞれと第一事件被控訴人萬世ビル株式会社との間において、原判決添付別紙物件目録記載(一)の建物のうち原判決添付別紙賃貸借契約一覧表記載(一)の各居室について、被控訴人萬世ビル株式会社が被控訴人住宅・都市整備公団より賃貸人の地位を譲受けたことによる賃貸借契約が存在しないことを確認する。三 訴訟費用は第一、二審とも第一事件被控訴人住宅・都市整備公団及び同萬世ビル株式会社の負担とする。」との判決を求め、第一事件控訴人らの旧請求は取下げると述べた。

第一事件控訴人らの当審における新たな請求につき、被控訴人住宅・都市整備公団訴訟代理人は、「一 第一事件控訴人らの右請求について訴を却下する。二 訴訟費用は第一、二審とも第一事件控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人萬世ビル株式会社訴訟代理人は、「一 第一事件控訴人らの右請求を棄却する。二 訴訟費用は第一、二審とも第一事件控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  控訴人らの主張

(一)  原判決は控訴人らと住宅・都市整備公団を除く被控訴人(以下「被控訴人地権者」という)間の訴訟の「訴の利益」の存否を判断するにあたって、この訴訟をいわゆる予防訴訟に該るものと断定し、予防訴訟をなりたたしめるだけの「特段の事情」の存在が認められない本訴にあっては「訴の利益」を肯認することはできないと結論している。しかし、本訴は原審のいうような予防的な事前訴訟ではない。

本訴は、請求の趣旨にも明示されるように、控訴人らの現在の法的地位の存否にかかわる争訟であり、将来の法的地位の確保のために予め提起された事前の訴訟ではない。控訴人らは過去に行われた本件建物の譲渡が違法無効であることを理由として、現在の被控訴人住宅・都市整備公団(以下「被控訴人公団」という)と被控訴人萬世ビル株式会社間の所有権移転の債権、債務の存否を争い、また現に右建物の一部に関し、被控訴人公団との間に賃貸借契約関係が存することを主張し、被控訴人公団はこれを否定して現にそのような法律関係が存在しないと争うので、まさにこのような現在の法律関係の確認を求めるために本訴は提起されているのである。控訴人らと被控訴人萬世ビル株式会社を除く被控訴人地権者との間の訴訟についても全く同様であって、控訴人らは現に右被控訴人地権者から本件建物の賃貸人として賃料支払その他賃貸借契約に基づく権利の行使を受け、債務の履行を義務づけられるような法的地位にないことを、これを争う右被控訴人らとの間で確認してもらうべく、本訴を提起しているのである。

(二)  原判決は、予防訴訟が許されるための要件について、「賃料その他の具体的な賃貸条件の変更をめぐっての現実の紛争に関する争訟の中で、……右譲渡の有効性を争って訴訟を遂行することによったのでは回復しがたい重大な損害を被るおそれがあるなど、予防訴訟において事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情のない限り、……法律上の利益を認めることはできないというべきである。」とするが、これは民事訴訟における確認の利益を不当に狭めてとらえるものであって、妥当な見解とは言い難い。個別・具体的な条件の法的確定を訴求する方法を選ぶか、その前提となる基本関係の確認を訴求する方法を選ぶかは、当事者の選択の自由に属することがらで、後者の方法のみが特に厳しく限定されなければならない理由はなく、後者の方法がむしろ「確認訴訟の本来の機能」をいかすものである。

(三)  仮に、本訴がいわゆる予防訴訟であるとしても、本件のようにあらゆる個別的な紛争が本件建物の譲渡の有効性如何にかかわり、また被控訴人地権者が本件建物住宅を取得した動機・目的からして賃貸条件をめぐる紛争が現実化するおそれが大である場合には、そのいう「特段の事情」が認められるべきである。

(四)  公団住宅は、住宅困窮者に対する国の住宅政策の一環として建設されたものであり、一般の利潤追究を目的とした民間住宅と異なり、その利用関係は公益性、公共性に貫かれた関係となっている。

右のような公団住宅の利用関係の基本的特殊性は、旧日本住宅公団法(以下「公団法」という。)一条が「住宅不足の著しい地域において、住宅に困窮する勤労者のために……集団住宅……の大規模な供給を行うことなどにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与する」とその目的を規定していることから明らかである。そして、このような公団の目的に基づいて公団法及び同法施行規則、通達その他公団関係諸法令によって規定されている建物賃貸借関係は、具体的には以下の点で民間住宅の場合と著しく異なった法律関係となっている。

(1) 入居期間の安定等

入居対象者は住宅に困窮しているものに限定され(施行規則一三条)、入居者の決定は公募の上抽選で決定されるなど公正な方法がとられており、公団側に入居者決定の自由はない。

一方、契約期間の定めは一応あるが、家主の自己使用目的等による正当事由による明渡請求が起こりえないため、実質的には期限の定めなく居住できる。

(2) 権利金等の授受の禁止

権利金その他これに類する金員の受領が禁止されているため、期間の更新にあたって更新料の請求など一切ない。

(3) 賃料決定方式の特殊性

営利を目的とする民間住宅と異なって、公団住宅の家賃は建設原価を元本として、これを長期に減価償却するという方式をとっているため、家賃は低廉におさえられている(施行規則九条、一〇条)。

(4) 住宅管理

公的な管理が徹底し、居住環境が良好なものとして維持されている。

右のような賃貸借関係の根拠となるべき公団法、同法施行規則等は、単に公団内部における内部準則を定めたものではなく、公団と控訴人らとの間の法律関係を直接規律すべきものとして拘束力を有する。従って、前記の公団住宅の賃貸借関係における特殊な法律関係は、控訴人らにとって、事実上の利益ではなく、法的な利益であると理解すべきである。

(五)  本件建物が公団から民間人である被控訴人地権者に譲渡されることは、控訴人らにとっては、そのこと自体によって賃料増額その他の法律関係において公団法など諸法令の適用を受ける地位からそうでない地位へと変化させられることとなり、この変化が控訴人らの法律的地位の不安定、法律上の不利益をもたらすことは明らかである。

百歩譲って、右の控訴人らの不利益が厳格な意味での法的不利益といえないものであるとしても、その不利益が著しいときは訴の利益が認められるべきである。

(六)  控訴人らの法的不利益は、本件建物の譲渡後賃料値上請求によって現実に具体化している。

(1) 鍛冶町住宅

昭和五七年一月一八日以来被控訴人吉川印刷は自己が賃貸人であると主張し、同年七月以降及び昭和五八年六月以降の賃料値上請求をし、昭和五七年七月以降住民は従来賃料を供託中である、右値上通告の内容は、たとえば、控訴人岩下貞治の場合、賃料一万六〇〇〇円、共益費二四〇〇円であったものが昭和五七年七月から賃料二万九〇〇〇円、共益費五〇〇〇円、昭和五八年六月から賃料八万七〇〇〇円、共益費八〇〇〇円という大幅な値上請求である。

(2) 外神田住宅

昭和五七年一月一八日以来被控訴人能澤製作所は自己が賃貸人であると主張し、昭和五八年五月一日以降の値上通告をし、同日以降住民は従来賃料を供託中である。値上通告の内容は、たとえば、控訴人前川河香志の場合、賃料共益費が合計二万一一二〇円であったものを一挙に九万四〇〇〇円に上げようとするものであった。

(3) 内神田住宅

昭和五七年一月一八日以来被控訴人寺田は自己が賃貸人であると主張し、昭和五九年四月より値上通告をし、同年五月以降住民は供託中である。値上通告の内容は、たとえば、控訴人今関美雪の場合、賃料共益費が合計一万七〇五〇円であったものを一挙に九万円にするというものである。

右のような状況からみれば、本件のうち未だ値上げが具体化されていない赤坂六丁目、万世橋の各住宅においても値上げ請求がされることは必定である。

(七)  右のような三倍ないし四倍という賃料値上の請求は事実上の立退要求に等しく、控訴人らの居住は不安定なものとなっている。

本件建物の管理を被控訴人地権者らがするようになって以後本件建物の一部で雨漏りがしたり、水道水から錆のような感じの色の水が出てくるようになった。部屋によっては窓ガラスの開閉が困難になったり、風呂場のガラスの排気が悪くなってきている。公団が本件各建物を管理していた時には、控訴人ら居住者が公団に対し右事情を話し補修を申込めば、早期に補修がなされていたが、被控訴人地権者らが本件建物の管理をするようになって以降、十分補修がされなくなっている。

また、被控訴人地権者らが本件建物の譲渡を受けた後新に賃貸借契約を締結した賃借人は、公募等の方法によるものではなく、使用目的も住居ということに限られていないために、事務所等も入居してきて、居住環境は悪化している。

(八)  以上のような諸事情は、控訴人らの主張による「訴の利益」の内容を基礎づけるばかりでなく、原判決のよって立つ「予防訴訟」の概念をとるとしても、それをなりたたせる「特別の事情」を基礎づける事実となるものであり、いずれにしても控訴人らに「訴の利益」があることは明らかである。

(九)  第一事件控訴人らが当審において新たな請求をし、旧請求を取下げた理由は、次のとおりである。

第一事件被控訴人萬世ビル株式会社は、原審口頭弁論終結時までの間においては、原判決添付別紙物件目録記載(一)の建物について所有権移転登記手続をしなかったが、昭和五八年三月三一日右建物について所有権移転登記手続をし、自己がその賃貸人の地位にあることを主張し、賃料の請求をしており、第一事件被控訴人住宅・都市整備公団は賃貸人の地位を否認するに至った。

2  第一ないし第五事件被控訴人住宅・都市整備公団の主張

(一)  旧公団及び被控訴人公団は、その余の被控訴人らに対し本件各建物を譲渡するとともに賃貸人の地位も譲渡し、かつて旧公団及び被控訴人公団と賃貸借関係にあった控訴人らとその余の被控訴人らとの間に引続き賃貸借関係が存続している。旧公団及び被控訴人公団と控訴人らとの間に存在した賃貸借の性格は、私法上の建物賃貸借関係であって、一般私法法規及び私法原理が適用されるのであり、控訴人らの主張する権利金等の授受の禁止、当初賃料決定の規定等が存在するとしても、正当事由による明渡請求は否定されておらず、施行規則及び契約書の記載に加えて借家法七条による賃料の改定も可能であって、控訴人ら主張の如き賃貸借に関する法律上の特殊性は認められない。

控訴人らは賃貸人の地位の譲渡により賃貸借関係の特殊性が失われ控訴人らの法的地位に不利益を生ずるから訴の利益がある旨主張するが、右のとおり両者の賃貸借関係に法律上の相違はなく、控訴人らは従前の賃借人たる地位を保全されているのであるから、控訴人らは本訴訟につき訴の利益がないといわざるをえない。

(二)  本件においては、旧公団と被控訴人協和電設を除くその余の被控訴人らとの間において、裁判上の和解により賃貸借契約の譲渡が行われている。従って、和解の当事者が自ら意思表示の欠缺を主張して効力を争わない以上、本件建物の譲渡は確定しその効力を否認しえず和解の効力を争う利益は控訴人らに存在しない。よって、本件建物の譲渡が裁判上の和解で行われた被控訴人らに対する関係においては、控訴人らに訴の利益がなく、訴を却下すべきであるから、控訴を棄却すべきである。

(三)  民事訴訟法三八八条の規定の趣旨は、審級の利益を保障することにあるところ、本件では旧公団と被控訴人協和電設を除くその余の被控訴人らとの間では前記のとおり裁判上の和解により本件建物の譲渡契約が締結されたことについて原審において実質的審理を経ているので、特に控訴人らの審級の利益の保障を顧慮する必要はないものというべきである。

仮に控訴人らに本件訴の利益があると判断される場合であっても、控訴人らの請求は理由のないことが明らかであるから、原審に差し戻すことなく、当審において控訴棄却の判決をすべきである。

(四)  第一事件被控訴人萬世ビルが本件建物(一)について昭和五八年三月三一日自己のため所有権移転登記手続をしたことは認める。

3  第一事件被控訴人萬世ビル株式会社、第二事件被控訴人株式会社能澤製作所、同日東地所株式会社の主張

(一)  控訴人らの主張は独自の見解に過ぎず予防訴訟が必要な事情は認められない。

(二)  賃料増額請求については個別に訴訟が提起されており、右訴訟により賃料増額の適否が争われれば足り、本件については訴の利益がない。

控訴人らと被控訴人公団との間の本件建物の賃貸借契約は、借家法の適用のある契約であるから、賃料増額請求をすることは不当ではない。

(三)  控訴人らは本件建物の居住環境が悪化していると主張するが、右主張は争う。

かえって、被控訴人公団所有の時点では完全な修理が行われずにいたため建物が老朽化し、被控訴人地権者らは建物を取得してから多額の修理費の支出を余儀なくされているのが実情である。

4  第四事件被控訴人吉川印刷株式会社、第三事件被控訴人同寺田満男の主張

(一)  控訴人らには本訴提起につき訴の利益がないとした原判決は正当である。

(二)  被控訴人吉川印刷株式会社が本件建物(四)の賃貸人として控訴人ら主張のとおり値上通告をしたことは認めるが、昭和五八年六月から賃料八万五〇〇〇円に値上請求したもので、八万七〇〇〇円に値上請求したものではない。

(三)  被控訴人寺田が本件建物(三)の賃貸人として控訴人主張のとおり値上通告をしたことは認める。

5  第五事件被控訴人協和電設株式会社の主張

(一)  控訴人らの本訴請求には訴の利益はない。

(二)  本件建物(五)は、被控訴人公団から買受けて貰いたいという要望があり、被控訴人協和電設はその敷地の所有者であったので、右公団の要望に応じて買受けたものである。右建物のうち専有部分三階から六階までの共同住宅はかなり老朽化した旧公団建設の建物である。

被控訴人協和電設は、数年にわたり賃料値上を自制してきたが、なにぶん老朽化した建物であり、雨漏り等の防止のため補修をしなければならない時期に来ており、これがため修繕費等の共益費の増額は避けられないのである。

(三)  被控訴人協和電設は、建設業として、東京証券取引所一部上場の一流企業であり、被控訴人公団に比して何ら遜色はなく、本件建物(五)の譲渡により控訴人らに著しい不利益が生ずるものとは考えられない。

6  証拠《省略》

理由

一  第一事件控訴人久保田明子、同冨沢芳枝、同内田恒雄、第二事件控訴人中村孝三、同佐藤紀、第四事件控訴人青柳幸司を除くその余の控訴人らが旧公団から原判決添付一覧表の契約年月日欄記載の年月日に同表賃借居室欄記載の各居室をそれぞれ賃借しそのころ引渡を受けたことは、第一事件控訴人久保田明子、同冨沢芳枝、同内田恒雄、第二事件控訴人中村孝三、同佐藤紀、第四事件控訴人青柳幸司を除くその余の控訴人らと被控訴人公団との間において争いがない。

控訴人らが旧公団から前記のとおり各居室をそれぞれ賃借し引渡を受けたことは、控訴人らと第一事件被控訴人萬世ビル、第二事件被控訴人能澤製作所、同日東地所、第四事件被控訴人吉川印刷との間において争いがない。

二  原判決事実摘示控訴人らの請求原因1(二)(1)の事実は、第一事件控訴人らと被控訴人公団及び第一事件被控訴人萬世ビルとの間において争いがなく、同(二)(2)の事実は、第二事件控訴人らと被控訴人公団、第二事件被控訴人能澤製作所及び同日東地所との間において争いがなく、同(二)(3)の事実は、第三事件控訴人らと被控訴人公団及び第三事件被控訴人寺田との間において争いがなく、同(二)(4)の事実は、第四事件控訴人らと被控訴人公団及び第四事件被控訴人吉川印刷との間において争いがなく、同(二)(5)の事実のうち契約締結日及び所有権移転時期を除くその余の事実は、第五事件控訴人らと被控訴人公団及び第五事件被控訴人協和電設との間において争いがない。

本件建物(一)について被控訴人萬世のため所有権移転登記が経由されたことは、第一事件控訴人らと被控訴人公団との間に争いがない。

被控訴人公団が旧公団の権利義務一切を承継した事実は、全当事者間に争いがない。

三  ところで、記録によれば、控訴人らは、本件各建物に関する前記各譲渡契約は無効であり、本件各建物の所有権は旧公団ないし被控訴人公団から被控訴人公団を除く被控訴人らに移転せず、被控訴人公団は依然本件各建物の所有権者であって控訴人らに対する賃貸人たる地位にあり、被控訴人公団を除く被控訴人らは本件各建物の所有権者ではなく、控訴人らに対する賃貸人たる地位にない旨主張し、一方、被控訴人らは、右主張を争い、前記各譲渡契約により、本件各建物の所有権はすでに旧公団ないし被控訴人公団から被控訴人公団を除く被控訴人らに移転し、これとともに控訴人らに対する賃貸人たる地位も移転した旨主張していることは、明らかである。

四  右事実によれば、控訴人らの被控訴人公団、第二事件被控訴人能澤製作所、同日東地所、第三事件被控訴人寺田、第四事件被控訴人吉川印刷、第五事件被控訴人協和電設に対する旧請求は、前記紛争を法律的に解決する方法として適切でなく、確認の利益がないものというべきである。

そうすると、原判決中変更前の旧請求を不適法として却下した部分(原判決主文一項の一部)は、結論において相当である。

五  第二ないし第五事件控訴人らの訴変更の適否について検討するに、訴変更後の新請求は、被控訴人公団からその余の被控訴人らに対する本件建物の譲渡は規則一五条所定の「特別の必要」がある場合にあたらず同条に違反し無効であることを理由として第二ないし第五事件控訴人らと被控訴人公団との間において各居室につき賃貸借契約が存在することの確認及びその余の被控訴人らとの間において各居室につき賃貸借契約が存在しないことの確認を求めるものであり、訴変更前の旧請求と請求の基礎に変更がないものと認められ、また、右新請求の追加によって訴訟手続を著しく遅滞せしめるものとは認められないから、右訴の変更は適法として許容すべきである。

すすんで、第一事件控訴人らの当審における新たな請求及び第二ないし第五事件控訴人らの変更後の新請求の訴の利益について検討するに、前記一ないし三の事実によれば、控訴人らは旧公団と被控訴人公団を除く被控訴人らとの間の前記各譲渡契約は無効であり、本件各建物の所有権者は依然として被控訴人公団であり、被控訴人公団が各居室につき控訴人らに対する賃貸人たる地位にあり、被控訴人公団を除く被控訴人らは本件各建物の所有権者ではなく、各居室につき控訴人らに対する賃貸人たる地位にない旨主張しているのに対し、被控訴人らはこれを争い、前記各譲渡契約は有効であり、本件各建物の所有権はすでに旧公団ないし被控訴人公団からその余の被控訴人らに移転し、これとともに各居室につき控訴人ら(但し、被控訴人公団において当初よりの賃貸借契約を否認している控訴人らを除く。)に対する賃貸人たる地位も移転し、現在被控訴人公団は各居室につき控訴人らに対する賃貸人たる地位になく、被控訴人公団を除くその余の被控訴人らがその賃貸人たる地位にある旨主張しているのであるから、控訴人らの右各請求は、現在の賃貸人が何人であるかを確定し、賃貸借契約から派生する個々の紛争の前提問題を抜本的に解決しうることからいって、確認の利益を有するものというべきである。右のように控訴人らに対する現在の賃貸人が何人であるかの点につき争いのある以上、被控訴人公団とその余の被控訴人らとの間において本件各建物の譲渡が有効に行われこれと同時に賃貸人たる地位の移転があったことについて争いがない事実は、なんら控訴人らの右各請求について確認の利益を否定するものではない。また、控訴人らの右各請求は本件各建物の譲渡が規則一五条所定の「特別の必要」の要件を欠き無効であることを理由とするもので、その審理につき審級の利益を考慮する必要がない場合にあたるとはいえない。

そうすると、原判決中第二ないし第五事件の変更後の新請求を不適法として却下した部分(原判決主文二項)は不当である。

六  よって、本件各控訴のうち原判決中第二ないし第五事件控訴人らの変更前の旧請求を却下した部分(原判決主文一項の一部)を取消して原裁判所へ差し戻すことを求める部分は、理由がないからこれを棄却し、本件各控訴のうち原判決中第二ないし第五事件控訴人らの変更後の新請求を却下した部分(原判決主文二項)を取消し原裁判所へ差し戻すことを求める部分は、理由があるから、原判決主文二項を取消し、原判決主文二項の控訴人らの変更後の訴及びこれと関連して審理することを要する第一事件控訴人らの当審における新たな請求についての訴を原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川添萬夫 裁判官 新海順次 石井宏治)

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